TSのつぶやき

身の回りの英語の疑問や考察を綴っています

不思議な日本語訳– 3 (NPT再検討会議)

英語の表現や名称を日本語に訳したものを見たとき、元の英語はどうなっているのだろうと興味を持ったことはありませんか。古くなりますが、たとえば1987年の映画「危険な情事」は、マイケル・ダグラス演じるエリート弁護士が、出来心でした不倫がきっかけで相手がストーカーと化し、遂には家族を巻き込んで破滅するというサスペンス映画です。この映画の原題は”Fatal Attraction”(フェイタル・アトラクション)と言います。直訳すれば、”Fatal”は「致命的」「破滅的」で、“Attraction”は「(人を)惹きつけること」ですから、「破滅につながるような惹かれ方をしてしまったこと」という意味です。勿論このままでは映画のタイトルにはできませんから、意訳してタイトルを考えることになります。その際、原題のニュアンスを入れつつ、見る人の興味を引き、なおかつ映画のストーリーにも言及できれば最高です。この「危険な情事」という邦題は、それらの要件をすべてクリアした、うまい訳だなと感心させられます。訳者の非凡な才能を感じます。(もっとも最近では、英語の原題をそのままカタカナにした邦題が多くなりました。「グレイテスト・ショーマン」や「プロミシング・ヤング・ウーマン」など、全く味気ない限りです)

 

さて前置きが長くなりましたが、今回は映画のタイトルではなく「NPT再検討会議」を取り上げます。NPTは”Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons”略して” Non-Proliferation Treaty”(核兵器不拡散条約)の頭文字を取ったもので、主な目的は核兵器保有国の増加(核兵器の拡散)を防ぐことです。1970年3月に発効し、1995年4月に無期限延長され、加盟国は191 (2015年2月現在)となっています。「NPT再検討会議」とは、NPTで決められていることが履行されているかどうかを5年ごとに協議する国際会議で、具体的には、NPTで核兵器保有が認められているアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国が核軍縮交渉を進めているか、それ以外の締約国(非核兵器保有国)が核兵器を開発・取得していないかを話し合います。

「NPT再検討会議」(矢印部) – 2018年5月30日 毎日新聞

 

「再検討会議」の「再検討」と聞いて、まず私の頭に浮かんだ元の英語は、”Re-consider”(リコンシダー)で、次に”Re-examine”(リイグザミン)でした。(分かりやすいように動詞形にしています) これは、私の経験上、日本人が好んで使う「検討する」を英訳にしたものに「再び」を意味する”Re”を付けたものです。

しかし、予想に反して元の英語は”Review”(レビュー)でした。”Review”の意味は「必要であれば変更する可能性あるいは意図を持って、評価または審査する」ということですから、「再検討」という訳はややニュアンスが違うような気もします。

ということになると、”Review”にピッタリくる訳は何でしょうか。「審査」「調査」「評価」「考察」「吟味」、どれも「必要であれば変更する可能性あるいは意図を持って」というニュアンスがなく、しっくりきません。加えて、「NPT再検討会議」は5年ごとに開催されているので「再び」のニュアンスも入れたほうが良さそうです。

ここまで来ると、やはり「再検討」という訳がベストと言えそうです。これを訳出した外務省(?)の担当者も、非凡な翻訳能力の持ち主かもしれません。

「NPT再検討会議」”NPT Review Conference” – 第10回