TSのつぶやき

身の回りの英語の疑問や考察を綴っています

英語閑話 – 2 (ジェンダーニュートラルな英語表現)

私が小学生の頃は、出席番号は男女別でしかも男子が最初でした。(つまり、出席番号1番は常に男子で最後は常に女子になります) また、アメリカではハリケーンに名前を付けているのですが、昔は女性名だけでした。当時を思えば、「そういうものだ」とあるがままに受け入れ、何の疑問を抱くこともありませんでした。しかし、これらは社会の制度や規範、慣習が性に大きな影響受けていることの表れであり、近年、女性の社会進出にともない、社会的・文化的に男女性差別をなくして行こうとする動きの中で次々と改められています。

今では、出席番号は男女混合で五十音や生年月日で採番されていますし、ハリケーンも男女交互に名付けられるようになりました。加えて、最近ではLGBTQと言われる性的少数派を社会的に認めていこうとする動きも活発です。このような動きは性に基づく区別(差別)や規範を撤廃し、特定の性にとって優位に作られた制度やシステムを変革して多様性を尊重する社会を確立していこうという考え方に基づいています。

 

こうした中で生まれてきた概念が「ジェンダーニュートラル”Gender-neutral”」です。ここで言う「ジェンダー」は生物学的な性別ではなく、個人の自己認識や社会的に構築された表現、態度、行為、属性、役割に基づくものを指します。ニュートラルは中立ということなので「ジェンダーニュートラル」は男女両性に適用可能という意味です。(同じような英単語に「ジェンダーフリー”Gender-free”」というものがあります。こちらは性を持たない、あるいは性別に関係ないという意味ですが、両者のニュアンスの違いは正直、分かりません。人によっては「ジェンダーニュートラル」と「ジェンダーフリー」を同義と考えることもあるようです)

 

“Stewardess”(スチュワーデス)を”Flight attendant”(フライトアテンダント)と言い換えるなど、「ジェンダーニュートラル」は英語の表現において顕著な発展を見せています。同様の言い換えは、この他にも多々あります。

 

男性を表す”Man”(マン)を含む言葉が、”Person”(パースン)や性を区別しない他の言葉に置き換えられているもの

  • “Salesman”(セールスマン) → “Sales person”(セールスパースン)
  • “Businessman”(ビジネスマン) → “Business person”(ビジネスパースン)
  • “Policeman”(ポリースマン) → “Police officer”(ポリースオフィサー)
  • Mailman”(メールマン) → “Mail carrier”(メールキャリアー)
  • ”Chairman”(チェアマン) → “Chairperson”(チェアパースン)

欧州安全保障協力機構(OSCE)の常設理事会議長(Chairperson)と外相理事会議長(Chairperson-in-Office) - 2016年1月14日 OSCE

最近では”Chairperson”の代わりに”Chair”(チェア)が用いられることも多い

新任の女性会長の告知 (矢印部に"Chair"(会長)の表記) - カナダのCPPOのホームページ

 

本来、男女を問わず広く「人」や「人間」表す”Man”(マン)であるが、"Man"の持つ性の属性を嫌い他の言葉に置き換えられているもの。(やや言葉狩りの匂いがしないでもありませんが…)

  • “Freshman”(フレッシュマン) → “First-year student”(ファーストイヤー・スチューデント): 大学一年生のこと。私が大学に入学した頃は「フレッシュマン」と言っていましたね。
  • “Mankind”(マンカインド) → “Humankind”(ヒューマンカインド): 人類のことです。
  • “Man-made”(マンメイド) → “Machine-made”(マシーンメイド)あるいは”Artificial”(アーティフィシャル): 「人造の」、「人工の」の意。

 

本来、男女別の表現があるものの、性による区別を避けるために置き換えが可能なもの。(これはこれで局面によっては便利な表現です)

  • “Son”(サン)または“Daughter”(ドーター) → “Child” (チャイルド)あるいは”Progeny”(プロジニー):  「子供」や「子孫」を指す。
  • “Husband” (ハズバンド)または”Wife”(ワイフ) → “Spouse”(スパウズ):  「配偶者」のこと。
  • “Sister” (シスター)または”Brother”(ブラザー) → “Sibling”(シブリング):  「兄弟姉妹」です。

 

これら「ジェンダーニュートラル」の表現に置き換えられた例を並べると、「言葉を変えたくらいで人の行動や思考は変わらないのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、性を区別して使っている言葉の中には差別や軽蔑のニュアンスを持つものもあり、言い換えによってそれらのニュアンスを排除し、やがては人々の行動や思考が変わっていくという可能性は否定できません。

 

40数年前、私は社会人としてブリヂストンでキャリアをスタートしましたが、当時、いわゆる総合職で入社した同期新入社員59名は、すべて男性で女性はゼロでした。しかし、最近の同社の大学新卒採用は女性が三分の一を超えており、「BSマン」なる言葉が大手を振っていたマンズワールド"Man's World"のブリヂストンを知る者にとっては、正に隔世の感があります。

昔よく耳にした「商社マン」とか”OL”(和製英語オフィスレデイ"Office Lady"の略)なども、もう死語となっているのも頷けますね。