TSのつぶやき

身の回りの英語の疑問や考察を綴っています

これって和製英語? – 2 (ピークアウト)

2019年、中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(正式名称はCOVID-19)は、2020年に入ってから瞬く間に世界を席巻し、社会に多大な影響を及ぼし私たちの生活様式を根本から変えようとしています。

日本でも新型コロナ感染症は猛威を振るい、累計感染者は2千万人を上回り死者数も4万人を超えました。その流行は2020年3月~6月の第一波を皮切りに現在、第7波に至っています。今回は、この流行の波のたびにマスコミを賑わす「ピークアウト”Peak out”」を取り上げます。

「ピークアウト」- 2022年2月5日 東海テレビ

 

「ピークアウト」という言葉は、新型コロナ出現前までは聞いたことがありませんでした。「ピークアウト」は「頂点(ピーク)」を「脱する(アウト)」ということから、「頂点に達する。また、そこから減少に転じる。頭打ち」と定義されているようです。新型コロナの流行においては「感染者の増加が収まり減少に転じる」ことを意味し、具体的には感染の波を表すのに「感染がピークアウトしたようだ。」、「第6波は、まだピークアウトしたとはいえない。」といったように使われています。

「ピークアウトした」
2022年9月15日 中国放送

 

対義語によく耳にする「ボトムアウト”Bottom out”」があり、これは「底(ボトム)」を「脱する(アウト)」つまり「底を打つ」あるいは「底入れする」という意味の正しい英語表現です。したがって「ピークアウト」も同様に英語表現にありそうな気がしてきます。(感覚的にも良い感じの英語に思えますが…)

ところが、英語には”Peak out”(ピークアウト)という表現はなく、これは和製英語です。

「ピーク”Peak”」とは「物事の最高潮つまり頂点」を表す言葉です。「頂点」というのは下降が始まって初めて認識されるもので、下降が始まらなければ頂点は存在しないことになります。したがって、「ピークアウト」で定義される状態では、まさしく既に「ピーク」が出現していることになり、両者は同義と考えられます。よって、「ピークアウト」の正しい英語表現としては”Peak”(頂点に達する)になります。(「ピークアウト」を「ピークアウトする」のように名詞として使用する場合の英語表現は”Pass a (the) peak”となります)

ではなぜ”Peak out”(ピークアウト)という英語表現はなくて、”Bottom out”(ボトムアウト)はあるのでしょうか。思うに、”Bottom”は「物事の最も低い部分」と定義され、必ずしも点とは限らない(一定の水準や時間を持つ)ことから、”Bottom out”(ボトムアウト)つまり「底(ボトム)”Bottom”を脱する(アウト)”Out”」という表現が論理的に矛盾しないからだと思います。

 

しかしながら、このように尤もらしく推理しても、なぜ「ボトムアウト”Bottom out”」という英語表現があるのに、「ピークアウト”Peak out”」はなく和製英語となるのか、実際のところ良く分かりません。

これは英語を母国語としない外国人には、永遠に謎かもしれません。